私が取っている“まぐまぐ通信”の中に
樺沢紫苑さんが書いていらっしゃる「映画の精神医学」というメルマガがあります。
樺沢さんが映画についてご自身の深い思いを書いていらっしゃるので
今回の「ブラインドネス」は
もう上映回数が10:10と18:10の2回だけになってしまったので
慌てて名古屋駅南にある109シネマズまで行って観て来ました。
カナダ・ブラジル・日本合作映画なので
伊勢谷友介、木村佳乃の2人が準主役級で頑張っていました。
お2人とも英語がお上手でした。
私は残念ながら樺沢さんのような深読みは出来ませんでした。
勿論樺沢さんが書いていらっしゃるような事は理解できましたが
それ以上のウンチクが語れなくて・・・・
DVDも出ることでしょうからご覧になってみて下さい。
長くなりますが樺沢さんの想いを転載させて頂きます。
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ハンマーで頭を叩かれたような強烈なインパクトを受ける映画。
おもしろいかどうかは賛否が分かれる映画だとは思うが、
「衝撃的」であるという点では疑いがいない。
全世界同時失明。
原因不明の病で、突然に失明してしまう。
急速に拡大する失明の嵐。
最初の感染者たちは、療養所という名の収容所に収容されるが、
この収容所での生活の様子が凄まじい。
限界状況に瀕した中で、人間のエゴとエゴがぶつかり、
人間の醜い部分が全て露呈されていく。
これらが見ていてつらい。
映像的に残酷なシーンはほとんどないが、この心理的な残酷さは
度を超えている。
まさに、「地獄絵図」だ。
「ブラインドネス」のレビューサイトの評価を見ると、
やたらに評価が低いが、この「地獄絵図」の描写があまりにも
強烈だからだろう。
ここでの唯一の救いは、ただ一人目が見えるヒロイン
(ジュリアン・ムーア)である。
彼女は、人々を助け、導く。
最初は見ず知らずの他人であった仲間たちが、次第に
家族のように深く結び付いていく様子は、感動的である。
目が見えること。健康であること。
誰もが、普段は当たり前すぎで気付くことも感謝することもない
健康の恵みを再認識するにちがいない。
しかし、この映画のテーマは、もっと深い部分にあるように思う。
なぜ、「目が見えなくなったのか?」「病気の正体は?」、
こうした謎は、映画の最後まであきらかにされない。
そこに不満を持つ人も多いかもしれないが、それを理解しようとすると
するならば、キリスト教的な解釈は不可欠である。
実は、登場人物たちに名前はない。
映画で見るとリアルな話だが、誰にでも起きうる普遍的な寓話として
見るべきなのだろう。
「黙示録」が現実化したといえば、それだけでも話は理解しやすい。
ある意味での、「世界の終末」である。
救世主は誰かというと、言うまでもなくジュリアン・ムーアの
ヒロインである。
その救世主たるヒロインは、何か特別の能力を持っているかといえば、
持っていない。
ただ目が見えるというだけ。あとは、普通の女性にすぎない。
唯一、彼女が力を持っているとすれば、それは「愛」だろう。
その一平凡な女性にすぎない彼女が、「全世界失明」の中では、
万能の力を持った神でもあるかのような存在となるわけだ。
「愛」の力があれば、誰でも世界を救えるかも知れない・・・
我々、一人一人の人間には計り知れないポテンシャルを持っている・・・
そんなことが描かれている。
一方で、収容所で「王」を名乗り独裁者になろうした男のように、
誰もが「悪魔」になるかもしれない。そんな恐怖も同時に描かれる。
原作は、ノーベル文学賞受賞作家ジョゼ・サラマーゴの「白の闇」。
「白の闇」の原題は「ENSAIO SOBRE A CEGEIRA」、直訳は
「盲目についての随筆」ということだから、「白の闇」というタイトルは、
日本の出版社がつけたのかもしれないが、とても良いタイトルである。
この映画では、盲目になるときに「白い光に包まれる」と言う。
「白=光」。光は「神」であり、「神の力」の象徴である。
「闇」は言うまでもなく、「悪魔」の象徴。
光があふれる世界は、神の力が行き届いた世界であり、
光が失われた「闇」の世界は、悪魔の力の領域ということになる。
「白の闇」、言い換えると「神と悪魔」、「神対悪魔」ということに
なって、この映画のテーマというか、本質を見事に一言で言いつくした
タイトルである。
娯楽映画というか、パニック、サスペンス映画を期待して劇場に
足を運ぶと100%期待外れとなるだろう。
しかし、テーマ性の深さ、人間描写の深さでいうなら、
ここまで骨太な作品はそうそうないとも言える。
ちゃらちゃらとした娯楽映画ではなく、
骨太な映画を見たいという人にのみ、お勧めできる作品である。
(★★★★★が満点。☆は、★の半分)
追伸 あまりに衝撃が強いので、未成年の方や、カップルで見に行くのは
お勧めしません。